大学生になって、初めて美容院を予約しました。
予約したところまではよかったんですが、そのあとで気づきました。
自分、美容院のこと何も知らない。
高校まではずっと、家の近くの床屋に通っていました。
中学生のころから同じ店だったので、椅子に座って、
「いつもと同じで」
と言えば終わり。
髪型をどう頼むか考えたこともないし、服装を気にしたこともありませんでした。
でも美容院では、その「いつも」がありません。
何を着て行けばいいのか。
髪型はどう頼むのか。
写真を見せるのか。
予約しただけなのに、だんだん緊張してきました。
服もオーダーも、どうすればいいんだ
ここで早速つまずく。
おしゃれ大学生でもない僕には、美容院はハードルが高い。 まず服装。
何を着ていけばいいのか分からない。
いっそ美容院に行くためだけに服を買おうかとも思ったけど、さすがにそこまでするのもどうかと我に返って、結局は手持ちの中で一番おしゃれっぽく見えるやつを引っぱり出した。
それから、どうオーダーすればいいのかという問題。
言葉でうまく説明できる気がしないし、こういうのは芸能人の写真でも見せた方が早いんだろうけど、「いやこの人と顔の作り違うでしょ」って内心思われそうで、それもこわい。
そんなことをぐるぐる考えながら、予約だけはネットで済ませた。
店の前で一回ひるんだ
当日、店の前に着いてまず驚いた。 建物がやたらおしゃれなのだ。
いきなり入る勇気が出なくて、一度そのまま店の前を素通りしながら中をチラ見した。
店内もおしゃれそうだし、働いている美容師さんもみんなおしゃれっぽい。
僕はどう見ても場違いだった。
意を決して中に入る。 席に案内されると、まわりがなんだか落ち着かない。 鏡の前の自分とも、どうも目を合わせづらかった。
頭が真っ白になった
そしてオーダーの瞬間が一番こわかった。
初めてラーメン二郎でコールするとき、あれに匹敵するくらいの緊張感。
「どんな感じにしますか?」 「あのー、えっと、う〜ん……」 頭が真っ白になった。
固まっている僕を察してくれたのか、美容師さんがタブレットでいろんな髪型を見せてくれた。 その中からよさそうなのを選んで、「こんな感じで」となんとか伝えた。
飲み物は何にしますか
カットしてもらっている間も気が抜けない。 美容師さんの小粋なトークに、まったくついていけないのだ。
会話が続かないのが気まずくて、置いてあった雑誌を真剣に読んでいるふりをして間をやり過ごした。
ただその雑誌も、読んだことのないやつばかりだったけど。 床屋でおなじみの漫画なんて、一冊も見当たらない。
そのうえ「お飲み物は何にしますか?」と聞かれて、一瞬止まった。
お飲み物?美容院って飲み物が出るのか。
床屋では一度も出されたことがないぞ。
メニューみたいなものを渡されて、とりあえず「じゃあアイスティーで」と答えた。
なんとかカットとシャンプーが終わる。 仕上がりは、正直いつもの店で切ってもらっていたのとそんなに変わらない髪型だった。
パカッと開く大きい鏡で後ろを見せられて、「こんな感じでいかがですか?」 「はい、大丈夫です」
何が大丈夫なのか自分でも分かっていないけど、ああいうとき何て言うのが正解なのか、分からない。
顔ぞりがない
どうやら終わったらしい。 ここであることに気づく。
あれ、顔ぞりがない。
今までの床屋では顔ぞりも付いていた。 床屋に行くこと自体はめんどくさくて好きじゃないけど、顔ぞりのあとのつるつるした感じ、あれだけは大好きなのだ。
そうか、顔ぞりは別料金なのかと思って、美容師さんに聞いてみた。
「あのー、顔ぞりもお願いしたいんですけど」 すると、申し訳なさそうにこう返ってきた。
「うちでは顔ぞりができないんですよ」
できない?なんで? 理由を聞いたら、法律上できないらしい。 まったく知らなかった。 理容師と美容師に、そんな違いがあったとは。
完全に田舎者丸出しで、その場から一刻も早く帰りたくなった。
行きつけが、全部リセットされた
家に帰り着いたら、もう気疲れでぐったりだった。 髪型はいつもとたいして変わらないのに、料金は床屋より3000円も高い。 しかも、大好きな顔ぞりはなし。
美容師さんはすごくいい人だった。 それだけは間違いないんだけど、僕が美容院に行ったのは、結局この一回きりになっている。
あとから思ったのは、進学と同時に実家を離れると、今までの行きつけやかかりつけが一気に全部使えなくなるということ。
床屋も、歯医者も、なんとなく通っていた近所の店も、また一から自分で探し直しになる。 実家にいたころは勝手に決まっていたものを、こうしてひとつずつ開拓していくしかない。
ちなみに今は、サークルの先輩に教えてもらった床屋に通っている。 結局そこに落ち着いた。 あのとき気軽に聞ける相手がいなかっただけで、半年もすればこんなものなのかもしれない。
結局また床屋かよ、という話である。
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